「鸂ケイ

新字源(角川)「鸂鷘けいちょくは、おしどりに似てやや大きく、美しい色彩のある水鳥。紫鴛鴦」
新漢語林(大修館)「鸂鷘ケイチョクは鳥の名。むらさきおしどり」
漢辞海(三省堂)「鸂鶒は、鴛鴦に似て紫色の水鳥。紫鴛鴦」
漢字源(学研)「鸂鶒ケイチョクとは、水鳥の名。オシドリに似るが、やや大きい。羽は紫色。いつもカップルをなして水に浮かぶ。別名、紫鴛鴦シエンオウ。▽今名は未詳。一説では、カワアイサ、または、キンクロハジロに当てる」

[考察]
「おしどりに似た水鳥」で四辞典が一致。ただし新漢語林は「むらさきおしどり」とするが、こんな和名の鳥がいるのか疑問。漢辞海ではカワアイサまたはキンクロハジロの一説を付す。
鸂鶒(鷘)で一語。ただしもとは[式+鳥]の一語で、後に棲息場所を示す渓をかぶせ、鳥偏をつけて鸂鷘・鸂鶒・鸂䳵となったと思われる。鸂鶒は古典に頻出するが、いまだに正体が不明である。
『臨海異物志』(三国呉・沈瑩)に「鸂鶒は水鳥。毛、五色有り。短狐を食ふ。其の渓中に在れば、毒気無し」とある。ついで六朝の文献に出る。左思・呉都賦に「渓䳵・・・其の上に泛濫す」とあり、李善の注に「鸂鶒は水鳥なり。色は黄赤。斑文有り。短狐を食ふ。虫水中に在れども毒無し。江東の諸郡皆之れ有り」とある。
唐代では紫鴛鴦の別名でも盛んに詩文に登場する。また唐代から本草にも入れられた。実在の鳥であることは疑いない。 
同定には三つの説がある。
(1)『中国動物志・鳥綱』では、Mergus merganserに同定する。これはカモ科ウミアイサ属のカワアイサである。中国名は普通秋沙鴨。70センチほど。頭と頸は緑黒色、胸と腹は白色。
(2)リードや鄭作新らはAythya fuligulaに同定する。これはカモ科ハジロ属のキンクロハジロである。中国名は鳳頭潜鴨。43センチほど。頭部は紫色の光沢があり、頭頂から冠羽が垂れ下がる。 
(3)『中国動物志・鳥綱』では繁殖中の鴛鴦とも推測している。そうすると鸂鶒もオシドリということになる。オシドリの雄は繁殖期には色が変わるという。
『本草綱目』で述べられている「首に纓(ひも)有り」という特徴に注目するとキンクロハジロの可能性がある。キンクロハジロの英語名はtufted(ふさ状の) duckである。

[正しい語釈](案)
鸂鶒(鸂鷘)。カモ科ハジロ属の鳥の名。河川・湖沼に棲息。頭部は紫色の光沢があり、頭頂から冠羽が垂れ下がる。 昆虫や甲殻類などを食べる。キンクロハジロ。別名、紫鴛鴦・渓鴨。Aythya fuligula
典拠:『臨海異物志』(三国呉・沈瑩)「鸂鶒は水鳥。毛、五色有り。短狐を食ふ。其の渓中に在れば、毒気無し」、『本草綱目』巻四十七「形小にして鴨の如し。毛、五采有り。首に纓有り。尾に毛有り船の柁の如し」